中国のトークン経済の規模と課題
中国のトークン経済の規模は驚異的で(1日あたりの呼び出し回数は140兆回に達する)、しかし3つの重大な問題が存在している。第一に、使用量の構造が単一であることだ。その大部分(120兆回)が字節跳動(ByteDance)の「豆包大モデル」によるものであり、主にAIビデオ生成のために使用されており、多様な業界に広く浸透しているわけではない。第二に、供給側は活発だが需要側は冷え込んでいる。政策は企業の生産能力拡大を補助しているものの、トークンという中間投入が住民の収入や消費、公共サービスに結びついていない。第三に、利益の分配が不均衡であり、AIの効率向上による恩恵は主に上流企業が享受しており、労働者はその恩恵をほとんど受け取っていない。需要側の問題を解決しなければ、トークン経済は「生産能力は拡大するものの住民の福祉は向上しない」という過去の失敗を繰り返す可能性がある。
詳細な分析
1. 140兆回のトークン使用量
140兆回という数字を見て、AIが多くの業界に浸透していると思う人もいるだろう。しかし実際には、その大部分(120兆回)が字節跳動の豆包大モデルによるものであり、特にAIビデオ生成に使用されている。1本のビデオを生成または修正するだけで数千万トークンが消費される。これは「ある企業の特定のシナリオが爆発的に成功している」に過ぎず、「多様な業界で広く利用されている」とは言えない。
例えば、ある都市の電力消費量がすべて1つの工場によって賄われているとしても、その都市全体の経済が活発だとは言えない。トークンの使用量が多いからといって、AIが実際に経済効率を向上させているわけではなく、一般市民が恩恵を受けているわけでもない。
2. 供給側の「閉じたサイクル」
地方政府(例えば北京の亦庄)はトークン経済を促進するために多くの補助政策を出している。計算能力のレンタルには30%、トークンの消費には50%の補助があり、さらには「データ券」を直接配布している。しかし、これらの補助金は企業に渡り、企業はそれを生産(例えばカスタマーサービスやコンテンツ生成)に使用する。これは原材料を購入する工場と同じであり、「最終消費」ではない。結果として、お金は政府→プラットフォーム→企業の間を循環し、住民の給与や社会保障、公共サービスには届いていない。亦庄の政策では「消費拡大」のための補助が実際には企業のトークン消費を支援しており、住民には一切利益が還元されていない。このような供給側の拡大による需要刺激の手法は過去にも(4兆円規模の太陽光発電などで)採用されたが、結局は生産能力の過剰と住民の実質的な恩恵の欠如に終わっている。
3. トークン=効率=利益ではない
多くの人はトークンの使用量が多いほど効率が高いと考えがちだが、実際は:
- トークンは投入であり、結果ではない。1回の呼び出しが無駄なテキストを生成することもあれば、時間を節約することもあるが、使用量自体が価値を示すわけではない。アメリカのKPMGの調査によると、企業の半数以上がAIの導入を減らしており、コストが利益を上回っている(例えばUberは年間のAI予算を使い果たしたが製品の改善は見られない)。
- 収入の増加が利益につながるとは限らない。智谱AIの収入は132%増加したが、調整後の純損失は29%拡大している。太陽光発電業界も規模は拡大しているが、通威股份は2025年に約100億元の赤字を計上している。つまり、トークンの使用量が多くても、実際の収入やコスト削減に結びつかなければ、それは「無駄な投資」に過ぎない。
4. 利益の分配不均衡
AIが創出する価値をチップメーカー、クラウドサービスプロバイダー、モデルプラットフォーム、アプリケーション企業などが分け合おうとしているが、労働者はほとんど利益を得られていない。例えば:
- 外食配達員はAIを使って注文処理の効率を上げても収入は増えない。
- 企業はAIを使ってコストを削減し、採用を減らしたり給与を下げたりする可能性がある。
- フォードはかつて生産ラインの効率を上げたために給与を上げた(日給2.34ドルから5ドルへ)が、現在のAI時代では「コスト削減」を優先している。
このような分配の不均衡は、住民の収入が増えず、消費力が弱まり、企業の製品が売れにくくなり、さらにAIに依存するという悪循環を引き起こす。
5. 最大のリスク:AIが新たな「生産手段」に過ぎない
多くの人はトークン経済を不動産業に次ぐ新たなエンジンと見なしているが、両者には本質的な違いがある。不動産業は低技能労働力を大量に吸収し、リフォームや家電などの消費を促進し、土地税や住宅価格の上昇を通じて住民に富をもたらす。しかしAIは資本集約型で労働節約型の技術であり、チップやサーバーが必要だが、大量の雇用を創出したり住民の収入を増やしたりすることはない。例えば、トークン工場がたくさん建てられても、住民がその製品(AI生成のサービスや商品)を購入できなければ、工場は結局稼働しない。これはフォードの生産ラインと同じであり、労働者が自分たちが作った車を買えなければ、どれだけ生産しても意味がない。フォードはかつて給与を上げることでこの問題を解決したが、現在のトークン経済にはその「鍵」が見つかっていない。
まとめ
トークン経済の本質的な問題は、AI自体が無駄だからではなく、「生産主義」の考え方で推進しすぎていることにある。生産能力や使用量、投資だけを重視し、住民の収入や消費、福祉を見落としているのだ。AIの生産力がいかに高くても、それが一般市民の生活改善につながらなければ、それは単なる「デジタルバブル」に過ぎない。フォード主義のもう半分(安定した給与、大衆消費、福祉制度)は自動的に実現されるものではなく、制度設計や社会協議によって築かれるものだ。これこそがトークン経済に本当に必要なものである。